“If you go first, you go alone. If you go far, you go together.”
本誌読者諸兄の多くは、会社経営に何らかの形で携わっている方が多いのではないでしょうか。起業して、程なくすれば会社の規模も事業内容も大きくなり、税務・会計など財務分野が経営に非常に重要な役割を果たすことを実感するとの声もよく聞きます。今回、インタビューに応じて戴いたのはEMZ株式会社 代表取締役社長、EMZ税理士法人 代表社員である佐久間将司氏。EMZグループは、公認会計士・税理士・社会保険労務士が中心となり立ち上げた税務・会計・労務・財務の総合アドバイザリーグループ。自らも経営者としてEMZグループを指揮する佐久間氏。以下、ベンチャー企業の経営者には、特に興味深いインタビューであるため熟読して頂きたい。(ベンチャープレス編集長 小野田篤)
■創業のきっかけを教えてください。
大学時代より、漠然と起業したいという思いがありながらも、会社を起こす前に経験しておきたい事が3つありました。それは、公認会計士の資格を取ること、外資系投資銀行で働くこと、MBAを取ること、でした。今考えると、非常に分かり易い、若者らしい願いではありましたが、後悔することは嫌いなので、とにもかくにもやってみることにしました。3つ目のMBAの資格を取る事は叶いませんでしたが、幸いにも公認会計士の資格を取り、その後、外資系投資銀行にも転職出来ました。しかしながら、忙しい日々を過ごしながら、数年経った頃から、空虚な思いに苛まれる機会が多くなり、「自分はこれでいいのだろうか」という不安感が増幅していきました。 そろそろ起業に向けて、動き出さなければと考えていた際に、上場会社の経営企画担当役員のお話を頂き、15年以上にも渡って、1人で会社を大きくし、上場させた創業社長と仕事が出来ることを魅力に感じ、あれやこれや考えずに、入社しました。「百聞は一見に如かず」とは良く言ったもので、非常に多くの事を、この仕事を通じ体感することが出来、この経験が、いよいよ創業したいという強い気持ちを引っ張ってくれました。その後、最終的な創業の準備として、若い社会人の時分よりお世話になっていた先輩の会社に籍を置き、小規模なオフィスでのマネジメントのノウハウの修得もできました。投資銀行、事業会社として依頼する立場で働いていた時に、問題意識を持っていたことは、大所高所に立って、一貫して、相談に乗ってくれて、あらゆる角度から専門分野として、お付き合いできるプロフェッショナルの総合会社がない、ということでした。税務だけ、法務だけ、というように、常に相談する相手が分散してしまい、コミュニケーションの点でも、ストレスを感じていました。
また、会社経営に求められるスキルが以前より複雑化して、真剣に会社経営を考えるほど、課題がもたらす影響が複合的になっていることに、士業がついていっていないことを感じていました。そのような状況下、どんな会社に対しても、一つの分野のプロフェッショナルが何でも相談に乗るよろず相談屋であってはいけない、という危機感をもっていました。 そこで、自分がこれまで培ってきた経験と実務能力、自分の能力が発揮できる立ち位置、問題意識を感じそれを解決しようと積極的に考える領域、を総合的に考えた結果、原点に立ち返って「プロフェッショナル」の道で創業することに決めました。そのプロフェッショナルとして、経営を真剣に考える経営者をサポートすることが、日本の企業の維持や成長に微力ながら役にたてるのではないか、と考えるようになりました。
■ 創業時、苦労したことはございますか?
苦労している点は、3つほどあります。
従来からの慣習で、小さい会社でも、税務業務、労務・人事業務、会計業務、財務業務を個別に依頼していることが多く、それを纏めることに対するメリットを委託しない限り実感して頂くことが難しいということ
既に多くの税理士が個人の会計事務所を展開し、且つ、コンサルティングを提供している会計士主体の会社もある中で、税務や労務を基盤にしながら、コンサルティングを提供することに関して、経験不足からか、概念を普及することが出来ていないこと
多くの士業従事者が付加価値をつける、差別化することの労を怠り、提供者側自ら過度な価格競争に持ち込み、サービスの質感を訴求要因に出来なくなってしまっていること
但し、20代、30代の若い経営者との会話の中で、そのような経営者は企業の在り方に対する意識が高く、外部のプロフェッショナルとの付き合い方も非常に深く理解されているので、現在の取り組みはきっと今後理解されていくと実感しています。
■ 現在の事業の取り組みについて、お聞かせください。
2つあります。 1つは、現在、伝統的な税務業務、会計業務に加えて、財務に関するアドバイザリー業務、労務・人事に関する業務を、ワンストップで依頼することの意味を、成長過程にあるベンチャー、経営者の意識の高いベンチャーに提案、実行しています。 これまで単に、税理士、社労士など個別に専門家にお願いしてきたことを、総合的にサービスしながら、企業の維持や成長に欠かせない会計や財務の視点からサポートすることで、企業のストレスを緩和し、サポートの質を高めることに注力しています。
もう1つは、周囲の企業の新しいビジネスのプロデューサーになることです。以前より、アドバイザーや顧問たる存在になると、色々な会社や人間を紹介することで、媒介役になることは行われていたと思います。我々は、発想を変えて、その媒介役になるだけではなく、財務的な視点からそのビジネスの参画者としての立場になることを視野に入れています。そうすることで、本当の責任が発生し、サポートする姿勢にも真剣味が増してくると考えています。 また、今後、力をつけて、我々のようなプロフェッショナルのサプライサイドのニーズ、企業のデマンドサイドのプロフェッショナルへのニーズを正確に把握して、我々が自らビジネスを創造することを考えています。
■ 経営者として、常に心に抱いていること(もの)はありますか。
5つあります。 『志の高いパートナーを如何に多く巻き込むか』、です。“If you go first, you go alone. If you go far, you go together.”、1人で行けるところよりも遥か向こうのゴールを目指すために、非常に大切なことです。何でも自分でやろうとするプロフェッショナルが最も欠けている視点だと思います。 『やらねばならないことか否か』です。以前、お世話になった会社の創業社長が「やらねばならないことか否か」をよく説いていました。私なりの理解は、「単に自分がやりたいのではなく、社会的に望まれていることなのか」ということです。「自分がやったことがあるか、自分が出来るか、自分がやりたいか」という発想だけで、動いてしまうことを自制するために、念頭に置いています。 『慣習、経験、にとらわれず、自由に柔軟に発想しているか』です。個人個人の経験や能力は非常に限られており、その少ない経験や能力だけで、判断すると道を誤ります。 『各人に当事者意識を持ってもらうこと』です。幸いなことに、尖ったビジネスセンス、卓越した営業力とバランス力、など、すぐれたリーダーや経営者に恵まれてきましたが、これまでお世話になった会社において、共通して感じたことは、社長とそれ以外の人間の「思い」の強さの差、「責任」への意識の差、でした。経営者は逃げることができません。それらを押しつける気はありませんが、当事者意識の気概がなければ、どんな仕事も作業にしかならず、会社の成長のドライバーになることや、キャリアの形成につながりません。
最後に、『経営は細部に至る』です。月並みではありますが、どんな仕事でも、些細なことが、大きな収益を生み出すこともあれば、ビジネスチャンスを失いことになりかねません。契約書の文言ひとつが大きなリスクを内在させることを考えれば、面倒ではあっても、細部に至るまで緻密に設計することを経営者として配慮する必要があると思っています。
■ 経営者とは、どういった存在ですか。
柱、だと思います。柱はぶれることがありません、時には強い存在感を訴えながらも、陰ながら常に全てを支える存在であること。
■ あなたが考えるベンチャーの定義とは。
新たな物を生み出そうという気概のある存在、です。社歴の浅い古い、企業規模の大小は関係ありません。いつまでも新しいものを生み出そうと考えていれば、それがベンチャーだと思います。
■ 読者へのメッセージ。
1990年代後半より、多くのベンチャー企業が生まれ、これまでの企業の在り方に色々な風穴を開けてきました。それと同じように、旧態然とした士業の業界は、我々のような意識を持つ有志達が中心になって、サービス提供の在り方、報酬の在り方等、大きく業界を変えていくと思います。その意味では、ベンチャー企業の方々にも、クライアントとして、忌憚なく士業の業界の在り方に一石を投じて頂いて、刺激を与えて頂きたいと思います。
今回、本誌としては初めて財務会計のプロフェッショナルにインタビューを敢行した。取材を通じて感じたのは、佐久間氏のビジネスに対する礼儀。 「軸足のぶれない経営をしたい。(佐久間氏)」 威風堂々と語ったこのひと言が最も印象的であり、佐久間氏を体現するものであろう。 俯瞰的に経営問題を提言できるプロフェッショナル集団、EMZ株式会社。 同社の展開に注目したい。


